大判例

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神戸地方裁判所 平成5年(ワ)312号 判決

兵庫県三木市大村五六一番地

原告

株式会社岡田金属工業所

右代表者代表取締役

山本勝次

兵庫県三木市大村五六一番地

原告

ゼツト販売株式会社

右代表者代表取締役

岡田保

右両名訴訟代理人弁護士

酒井信次

田中稔子

右輔佐人弁理士

大西健

東京都板橋区小豆沢三丁目四番三号

被告

株式会社タジマツール

右代表者代表取締役

田島庸助

右訴訟代理人弁護士

増岡章三

對﨑俊一

増岡研介

片山哲章

主文

一  被告は、原告株式会社岡田金属工業所に対し、別紙被告物品目録記載の鋸柄を製造、販売してはならない。

二  被告は、原告株式会社岡田金属工業所に対し、金二四七六万〇二〇五円を、原告ゼツト販売株式会社に対し、金六一九万〇〇五一円をそれぞれ支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙被告物品目録記載の鋸柄及び鋸刃を製造、販売してはならない。

2  被告は、原告株式会社岡田金属工業所(以下「原告岡田金属」という。)に対し、金二億四八〇万円を、原告ゼツト販売株式会社(以下「原告ゼツト販売」という。)に対し、金五一二〇万円をそれぞれ支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  2項につき、仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告ら及び被告は、いずれも、工具等の製造、販売を業とするものである。

〔実用新案権に基づく差止請求-鋸柄〕

2  原告岡田金属の有する実用新案権

原告岡田金属は、別紙実用新案権目録記載のとおりの実用新案権

(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有する(以下、本件考案の構成部分の記号及び番号は、別紙実用新案権目録添付図に付されたものである。)。

3  本件考案の構成要件と作用効果

(一) 本件考案の構成要件

本件考案は次の構成要件からなる替え刃式鋸における背金の構造である。

(1) 前提要件

柄2の先端部に背金3を取り付け、該柄2への鋸替え刃4の取り付けに際しては、背金3の内側に形成した支持部5に、替え刃4の凹部6を掛け合わせるように形成した構成の替え刃式の鋸において、

(2) 背金全体形態

背金3全体の長さを、替え刃4の手前側基部を支持する寸法に設定するとともに、

(3) 間隙部Bの構成

背金3における支持部5が位置する下方の間隙部Bを、鋸替え刃4の基部を容易に差入れ得る巾に設定して解放し、

(4) 間隙部Bと狭まり部Cとの関係

該巾広状の間隙部Bを、背金3における支持部5よりも前方側で、かつ、背金3の下方側付近、あるいは、背金3の先端側付近に形成した鋸替え刃4の厚み以下に設定した狭まり部Cに至るまで継続させ、

(5) 掛止め操作時の状態

背金3への鋸替え刃4の掛け止め操作時にあっては、鋸替え刃4の背部が該狭まり部Cに至るまでは、挟持状態となることなく自由に回動させるようにする一方、

(6) 鋸替え刃装着時における状態

鋸替え刃の完全装着時にあっては、専ら該恒久的な狭まり部Cによって挟持され、背金3における他の内壁面部分は、鋸替え刃4の側面部に対して、圧接状態とならないように形成したことを特徴とする

(7) 替え刃式鋸における背金。

(二) 本件考案の作用効果

本件考案は、背金における鋸替え刃の差し入れ部となる「間隙部」と鋸替え刃の挟持部となる「狭まり部」とを区別した形で形成し、鋸替え刃の完全装着時においては、専ら「狭まり部」により鋸替え刃を挟持させる構成とすることにより、同じ鋸柄に対して、種々厚みの異なった鋸替え刃の装着を可能にするという作用効果を奏する。

4  被告の製造・販売

被告は、平成元年六月ころから、別紙イ号物件説明書及び同図面記載の背金(以下「イ号物件」という。以下のイ号物件構成部分の番号は、右説明書及び説明図に記載されているものである。)を一体的に取り付けた別紙被告物品目録第一「鋸柄」関係欄記載の鋸柄(以下「被告鋸柄」という。)を業として製造、販売している。

5  イ号物件の構成と作用効果

(一) イ号物件の構成

(1) 柄2の先端部に背金3を取り付け、該柄2への鋸替え刃4の取り付けに際しては背金3の内側に形成した支持部5に、替え刃4の凹部6を掛け合わせるように形成した構成の替え刃式鋸において、

(2) 背金3全体の長さを、替え刃4の手前側基部を支持する寸法に設定するとともに、

(3) 背金3における支持部5が位置する下方の間隙部Bを、鋸替え刃4の基部を容易に差し入れ得る巾に設定して解放し、

(4) 該巾を手前側から先端までの間一定にするとともに、背金3の前方の割り込み部Dに嵌着した対向する下端縁が手前側から先端側に向かうにしたがって幅狭に形成され、かつ、断面略馬蹄形状の板バネ9により、背金3を前端かつ下端の挟持箇所Cに至るまで下方側の手前から先端に向かうにしたがって、また、先端の上方から下方に向かうにしたがって、それぞれ次第に狭まらしめ、

(5) 背金3への鋸替え刃4の掛け止め操作時にあっては、背金3の内側の間隙の巾が鋸替え刃4の巾より大きい部分では鋸替え刃4を自由に回動させ、右間隙の巾が鋸替え刃4の巾以下の部分では鋸替え刃4の背部が該挟持箇所Cに至るまでの間背金3の内側と接触状態を保ちながら挟持箇所を次第に押し拡げるように回動させるようにする一方、

(6) 鋸替え刃4の完全装着時にあっては、専ら板バネ9によって形成された挟持箇所Cによって挟持され、背金3における他の内壁面部分は、鋸替え刃4の側面部に対して圧接状態とならないように形成したことを特徴とする

(7) 替え刃式鋸における背金3

(二) イ号物件の作用効果

イ号物件は、(一)の構成を有することによって、前記3(二)記載の本件考案の作用効果と同一の作用効果を奏する。

6  本件考案の構成要件とイ号物件の構成との対比

(一) イ号物件の構成のうち(1)ないし(3)及び(7)は、それぞれ本件考案の構成要件(1)ないし(3)及び(7)と同一であるから、これらの要件を充足する。

(二) 構成要件(4)について

(1) 間隙部Bについて

イ号物件における間隙部Bは、鋸替え刃4の厚み以上に設定された部分であることはイ号物件の図面を見ても明らかである。

(2) 狭まり部Cについて

本件考案における狭まり部Cとは、背金自体に形成された鋸替え刃の板厚以下に設定せられた間隙部分を意味するものであるが、イ号物件においては、背金3の前方側に形成した割り込み部Dに馬蹄形状の板バネ9を装着させることによって、背金3の先端部分に鋸替え刃の板厚以下に絞り込まれた箇所が狭まり部Cに該当する。

(3) 板バネ9を嵌着した点について

本件考案は鋸替え刃を保持するための「背金」に関するものであり、このような実用新案において「背金」といえば鋸替え刃を保持するためのものそのものを指していることは明らかである。

イ号物件にあっては、板バネ9を外してしまえば鋸替え刃を挟持し得ず、背金としての機能を失って用をなさなくなってしまうのであり、挟持箇所Cを形成するための板バネ9を取り付けた状態の物が背金自体というべきである。

板バネ9を嵌着したという点については、単に背金における狭まり部Cの形成方法の違いをいっているにすぎない。

(4) よって、イ号物件の構成(4)は本件考案の構成要件(4)を充足する。

(三) 構成要件(5)について

イ号物件の構成(5)によると、イ号物件は、背金3への鋸替え刃4の掛け止め操作時において、背金3の内側の間隙の巾が鋸替え刃4の巾より大きい部分では鋸替え刃4を自由に回動させ得る構成となっており、本件考案の構成要件(5)を充足する。

なお、背金3への鋸替え刃4の装着に際し、間隙部Bから差し入れた鋸替え刃4が、鋸替え刃4の厚み以下に設定した箇所である狭まり部Cの開始位置に至るまで自由に回動させ得れば、本件考案の構成要件(5)を充足するものであり、その開始位置から隙間が零である箇所に至るまでの状況は構成要件(5)の充足性には無関係である。

(四) 構成要件(6)について

イ号物件においては、板バネ9を装着させた状態とすることによって初めて鋸替え刃を装着させ得る背金となりうるのであり、その状態のもとで鋸替え刃の厚み以下に設定した狭まり部が恒久的となっておれば、本件考案の構成要件(6)を充足する。ここで恒久的とは、鋸替え刃の着脱操作の繰り返しによっても狭まり状態が継続することを意味し、イ号物件においても狭まり状態は継続するものであるから、イ号物件の構成要件(6)は本件考案の構成要件(6)を充足する。

なお、特殊な工具の使用により板バネ9が着脱可能であるということをもって、恒久性を否定することはできない。

(五) 以上のとおり、イ号物件は本件考案の構成要件を全て充足する構成となっており、またその作用効果も同じであるので、イ号物件の製造、販売は本件実用新案権を侵害する。

7  差止めの必要性

(一) 被告鋸柄においては、本件考案の技術的範囲に属する背金(イ号物件)と把持柄とが物理的、機能的に一体となっているので、被告鋸柄全体について製造、販売の差止めを求める必要がある。

(二) 被告は、被告鋸柄の製造、販売を中止したと主張するが、原告の調査によれば、平成六年八月以降も小売店において被告鋸柄を用いた被告の商品が販売されている。

8  原告ゼツト販売による本件考案実施品付鋸柄の販売

原告らは、昭和六三年一二月から、原告岡田金属とその子会社である原告株式会社ゼツト販売(以下「原告ゼット販売」という。)との間の総販売権移譲契約に基づき、原告岡田金属において本件実用新案権の実施品である背金(以下「本件背金」という。)を取り付けた鋸柄(以下「本件鋸柄」という。)を製造し、原告ゼツト販売においてこれを独占的に販売し、本件実用新案権の登録後も右製造、販売を継続してきている。

〔不正競争防止法(現行法及び平成五年法律第四七号による改正前のもの〔以下「旧不正競争防止法」という。〕)に基づく請求-鋸替え刃〕

9  原告岡田金属は、別紙本件物品目録及び別紙本件替え刃図面1ないし3記載の各鋸替え刃(以下「本件替え刃」という。)及び本件替え刃を装着した同目録記載の各商品(以下「本件商品」という。)を製造し、原告ゼツト販売は、本件替え刃及び本件商品を販売している。

10  本件替え刃の商品形態の商品表示該当性

(一) 旧不正競争防止法一条一項一号にいう「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」の中には商品形態自体も含まれるが、本件替え刃は以下のとおり他の製造業者による替え刃式鋸の替え刃に比して、その形状、商品名の表示方法において著しい特徴を有しており、その商品形態自体に商品表示性が認められる。

(二) 替え刃式鋸の柄を所有している一般需要者にとって、最大の関心事は、自己の所有している柄に装着可能な鋸替え刃を選択することであり、鋸柄への装着部となる替え刃の掛止め部、背凹部、商品名の一部としての寸法表示を特徴とする商品形態をよりどころとして自己の所有する柄に装着可能な替え刃を選択しているのが実情である。

原告岡田金属は、昭和五〇年から、「背金の内側に形成した支持部に替え刃の基部側に形成した凹部(掛止め部)を掛け合わせた後、替え刃全体を上方に回動させ、背金の挟持溝で替え刃を保持させる」という独自の方式(回転着脱方式)を採用した替え刃式鋸の製造販売を開始し、これにより鋸市場において回転着脱方式の替え刃式鋸の製造者として広く認識されるようになった。

本件替え刃は、右の回転着脱方式により背金に装着できるように構成された掛け止め部の形態(鋸替え刃の基部側上方位置に半径一八ミリメートルの円弧部を形成するとともに該円弧と同心上にある半径五ミリメートルの円弧部を形成することによってフツク状の掛け止め部を形成している。)に最大の特徴を有しており、加えて背凹部が存在すること、替え刃上に刃渡り寸法の表示を商品名の一部として赤色で大きく表示していること(特に「二六五」が意味する刃渡り二六五ミリメートルという寸法は、原告の独自の研究開発により最適であると判明したJIS規格にもない寸法であり、それ自体独自性を有する。)から、独特の商品形態を有している。

本件替え刃の独特の商品形態は、以下のとおり鋸市場において原告らの商品の形態的特徴として広く認識されており、原告らの製造、販売にかかる鋸替え刃であることを識別する表示としての機能を有するに至っている。

11  周知性

(一) 販売実績

原告岡田金属は、昭和五七年七月に本件商品のうち「ゼツトソー・二六五」及びその替え刃を、昭和五九年八月に「ゼツトソー・八寸目」及びその替え刃を、昭和六一年六月に「ゼツトソー・三〇〇」及びその替え刃を、それぞれ発売開始した。

昭和五七年七月から被告参入の前年度である昭和六三年一一月末までの本件商品及び本件替え刃の各総販売数は、それぞれ約二五七万丁、約八六七万枚であり、平成六年一一月末までの本件商品及び本件替え刃の各総販売数は、それぞれ約六四七万丁、約二九一六万枚である。

なお、昭和六三年一二月からは、原告岡田金属は、本件商品及び本件替え刃の販売を子会社の原告ゼツト販売に委ねている。

(二) 市場占有率

替え刃式鋸が鋸市場の主流になった昭和六〇年ころの鋸の年間総販売数は、従来型のものも含めて六五〇万個程度と推測され、この数値をもとに本件商品及び本件替え刃の市場占有率を計算すると次のとおりとなる。

昭和六〇年度 二〇パーセント

昭和六一年度 三五パーセント

昭和六二年度 四九パーセント

昭和六三年度 六〇パーセント

平成元年度 六五パーセント

平成二年度 六二パーセント

平成三年度 七一パーセント

平成四年度 七一パーセント

平成五年度 七四パーセント

平成六年度 六〇パーセント

(三) 販売対象地域

本件商品及び本件替え刃は、昭和五七年七月以降、販売代理店八三社、特約店八三社を通じて、北は北海道から南は沖縄まで全国津々浦々で販売されている。

(四) 広告、宣伝活動

(1) 原告らは、本件商品及び本件替え刃の広告、宣伝活動を以下のとおり継続的かつ大規模に行ってきた。

(2) 新聞広告費用

本件商品及び本件替え刃についての新聞広告費用は、昭和五七年四月一日から被告参入直前である平成元年三月一日までが、六九六万八〇〇〇円、平成六年一一月二〇日までが、三七二一万四五〇〇円である。

本件商品及び本件替え刃に対する社会の認識、関心度は、他の製品に比べて極めて高く、業界紙にとどまらず、広く一般の商業新聞等にも取り上げられた。

(3) ラジオ、テレビ、カタログ等の費用

本件商品及び本件替え刃のラジオ、テレビ、カタログ等の宣伝、広告費用は、昭和五七年四月一三日から平成元年五月四日までが、五三九七万四三〇〇円、平成六年一一月二日までが一億七四一一万三七五〇円である。

(五) 昭和五七年度三木市より新殖産品指定

我が国有数の金物生産地である三木市においては生産物増加、産業発展の目的で殖産品指定を行っているが、本件商品のうち「ゼツトソー・二六五」は、昭和五七年度に新殖産品の指定を受け、三木市によって当時全国の約八〇〇〇店の金物店に紹介された。

右の各事実より、本件商品及び本件替え刃は、遅くとも被告が被告替え刃の製造販売を開始した平成元年中ころまでにはその商品形態が広く取引者、一般需要者に認識されるに至り、周知性を獲得していた。

12  被告の替え刃の製造、販売

被告は、平成元年ころ以降、別紙被告物品目録第二鋸刃関係欄記載の鋸替え刃(以下「被告替え刃」という。)を製造、販売している。

13  本件替え刃と被告替え刃の商品形態の同一性、類似性

(一) 掛止め部を要部とする全体の形状の比較

本件替え刃と被告替え刃とは、本件替え刃の最大の形態的特徴である掛止め部(要部)の形態には、肉眼で識別し得る程の相違点がなく、その寸法も同一である。

被告替え刃には、右上角に半径五ミリメートルの円弧が形成されているが、一般需要者が本件替え刃を識別するにあたって最大のポイントとなる掛止め部から遠く離れた位置にあるわずか半径五ミリメートルの円弧の有無は問題とならない。

(二) 背凹部の比較

被告替え刃の背凹部は、本件替え刃の背凹部と同じ深さで横巾もほぼ同じであり、一般需要者にとってはほとんど同一の形状にみえる。

(三) 商品名の表示方法の比較

被告替え刃上の商品名の表示位置及びその文字の大きさ等も本件替え刃と全く同一である。

被告替え刃の三種類の商品構成は、本件替え刃と同一である。

(四) 目立て方法の同一性

原告岡田金属は、替え刃の切れ味をよくするための研究の結果、刃先の高いもの四個の後に低いものを二個を配列するという方法(四-二配列)を採用しているが、被告替え刃もその方法を採用しており、アサリ巾やナゲシの角度までもそっくり同じになっている。

以上のとおりであるから本件替え刃と被告替え刃の商品形態は同一ないし類似のものである。

14  出所混同のおそれ

被告は、本件替え刃の最大の特徴的部分である掛止め部の形態は勿論、替え刃全体の形状も本件替え刃と寸分の狂いもない隷属的模倣を行ったうえ、さらに刃渡り寸法の数字を商品名にとりいれるという表示方法まで同じくし、文字全体の大きさやバランスに至るまで同じような表示形態を採用している。かかる隷属的模倣を行えば、営業主体間に商品の出所の混同を生じさせ、また、商品の供給主体間におけるライセンス契約、業務提携関係、OEM契約(相手先ブランドによる商品供給契約)があるのではないかといった誤った認識を需要者に生じさせる可能性があることは明らかである(いわゆる「広義の混同」)。

15  営業上の利益の侵害

被告が本件替え刃と同一ないし類似の形態の替え刃を製造、販売する行為は、本件替え刃を製造、販売している原告らの営業上の利益を侵害する。

16  被告の故意

(一) 被告替え刃における背凹部の存在

本件替え刃の背凹部は製造工程上の必要から生ずるものであるが、被告替え刃の背凹部は製造工程上不要なものである。現に初期の被告替え刃には背凹部は存在しなかった。ところがいつのころからかわざわざ背凹部を作るようになったのであり、これはまさしく出所の混同をねらった隷属的模倣のためのものとしか考えられない。

(二) 掛け止め部の寸法について

原告岡田金属は、平成元年初夏、被告が被告替え刃の製造、販売を開始したことを知り、直ちに被告替え刃を取得して替え刃の構造等につき研究したところ、被告替え刃は手前側下方部の長さが本件替え刃に比して三ミリメートル程度長いことが判明した。そこで被告替え刃を本件背金に装着できないようにするため、従来円形であった本件背金の支持部の形状を、平成三年七月三一日以降は「まがたま」状に変更することにした。

ところが、被告は、即座に被告替え刃の手前側下方部を短くし、掛け止め部の寸法を本件替え刃と全く同じ寸法にし、原告岡田金属の「まがたま」状の支持部に掛け合わせ可能にしてしまった。

(三) 本件替え刃と被告替え刃の商品形態は、類似の域を越えた全く同一形態のものといえ、被告が意図的に本件替え刃を模倣しない限りこうした形態の一致はあり得ない。

〔原告らの損害〕

17  原告らの損害(逸失利益)

(一) 原告らは、被告による本件実用新案権侵害行為及び旧不正競争防止法違反の行為により、営業上の利益を害され、損害を被ったところ、原告らの損害額は、被告が被告鋸柄及び被告替え刃(以下、被告鋸柄に被告替え刃を組み合わせて一つの商品としたものを「被告商品」という。)の製造、販売により得た利益の額と同額と推定される(平成五年法律第二六号による改正前の実用新案法[以下「旧実用新案法]という。」二九条一項)。

右被告の利益を、平成元年度から平成六年度の被告商品及び被告替え刃の各販売総数(原告らの市場調査による右期間中における被告商品の販売総数は九五万二八〇一丁、被告替え刃の販売総数は五一七万二二四七枚である。)に、これらに対応する本件商品一丁及び本件替え刃一枚当たり利益額(本件商品一丁当たりの利益額は二八五円、本件替え刃一枚当たりの利益額は一三二円)を乗ずる方法により算出すると、九億五四二八万四八八九円となる。

(二) 本件商品及び本件替え刃の販売価格に対する原告らの取得比率は、原告ら間の契約により、原告岡田金属が八割、原告ゼツト販売が二割となっているので、原告らの各損害額を右取得比率に応じて算定すると、原告岡田金属は七億六三四二万七九一一円の、原告ゼツト販売は、一億九〇八五万六九七八円の各損害を受けていることになる。

(三) なお、被告の発表に基づく被告商品及び被告替え刃の総販売数量をもとに被告の利益を算定すると一〇億三五六八万〇一〇〇円となり、この場合の原告岡田金属の損害額は、八億二八五四万四〇八〇円で原告ゼツト販売の損害額は二億七一三万六〇二〇円となる。

18  よって、原告らは、被告に対し、原告岡田金属は本件実用新案権及び不正競争防止法二条一項一号(平成五年法律第四七号による改正前の不正競争防止法〔以下「旧不正競争防止法」という。〕一条一項一号)に基づき、原告ゼツト販売は右不正競争防止法の規定に基づき、被告鋸柄及び被告鋸刃の製造、販売の差止めと、不法行為に基づく損害賠償請求として、前記損害のうち、原告岡田金属に対して二億〇四八〇万円の、原告ゼツト販売に対して五一二〇万円の各支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2及び3(一)の各事実は認める。

2  同3(二)の事実は否認する。

3  同4の事実のうち、被告が平成元年春から平成六年七月末まで被告鋸柄を業として製造、販売していたとの事実は認めるが、その余の事実は否認する。

被告は平成六年八月一日以降は改良品である新製品を製造、販売しており、この方が優れているから旧製品の製造、販売の可能性はない。原告らは被告が現在でも旧製品を製造、販売しているかような主張をしているが、この種の製品は在庫が完全になくなるのに一、二年かかるのが通常であり、原告らが入手したと主張する被告旧製品は単に在庫品が市場に残っていたものと推測される。

4  同5(一)の事実は認める。

5  同5(二)の事実は否認する。

6  同6(一)の事実は認める。

7  同6(二)ないし(四)の事実は否認する。

8  同7の主張は否認する。本件考案は背金の構造に関するものであり鋸柄、替え刃には及ばない。

9  同8の事実は知らない。

10  同9の事実は否認する。

11  同10の事実は知らない。

12  同11の事実及び法的主張は否認ないし争う。

13  同12の事実は否認する。

14  同13の事実は認める。

15  同14の事実は否認する。

16  同15ないし18の各事実及び法的主張は否認ないし争う。

三  被告の主張

1  実用新案権侵害の点について

(一) 本件考案の技術的範囲について

(1) 狭まり部の形成位置(構成要件(4)関係)について

本件考案の請求の範囲の記載に「狭まり部C」なる文言があるが、この意味内容は請求の範囲の中の説明によっても必ずしも明確ではない。

そこで「狭まり部C」の解釈にあたっては、記号Cが図面の記号であることから図面の記載を参酌し(詳細な説明参酌の原則)、さらに原告岡田金属は本件考案の出願経過の中で自ら一定の限定を加えた説明を行っているのでこれを参酌することとなる(出願経過参酌の原則、禁反言の原則)。

すなわち、原告岡田金属は、平成元年六月一二日付の特許庁長官に対する早期審査に関する事情説明書において、本件考案は背金の先端部と下方縁部とに辺状部を形成し、その一方あるいは双方の辺状部に狭まり部を形成した構成であるという点で先行技術と違いがあり、右構成により、鋸刃に対する挟持力が線接触により得られる状態となることを述べている。

また、原告岡田金属は、平成元年一二月二日付の手続補正書で請求の範囲及び図面を補正し、請求の範囲中に次のような記載をしている。

「背金3・・・の先端部に縦方向の辺部7と該辺部に続く横方向の辺部8を形成し、・・・上記辺部7全体あるいは8全体、又はその両辺部7並びに8全部、・・・狭まり部Cを形成したことを特徴とする」

これらのことから、本件考案の請求の範囲にいう「狭まり部C」とは、縦方向の辺部全体、横方向の辺部全体又は両辺部全体に図面に示されたような態様で設けられ、鋸刃装着時には線接触の態様になるものを指し、それ以外のものは本件考案の技術的範囲に含まれない。

(2) 狭まり部Cの形成方法(構成要件(4)関係)について

原告岡田金属は、本件考案の無効審判の審決に対する審決取消訴訟において、「本件考案においては素材板(背金の素材板)を二つ折り成形の工程を経る前に『狭まり部の予備成形』が不可欠である。」と主張しており、このことからすると、本件考案における狭まり部Cは、背金の素材板に狭まり部の予備形成を行うような背金自体を絞り込む方法によって形成せられらものであることを要すると解される。

(3) 背金3の対象について

本件考案の請求の範囲及び図面を素直に読む限り、背金3は一つの部材を指しているのであって、部材を組み合わせた部分全体を指しているのではない。

また、請求の範囲において、「背金3・・・全体に対して焼入れ加工を施した構成」の実施例が記載されていることから、本件考案にいう背金3は、全体に対して焼入れ加工を施すことが予定されているものであり、複数の部材を組合わせたものではあり得ず、一つの部材にほかならないと解される。

(二) 本件考案の構成要件とイ号物件の構成との対比について

(1)構成要件(4)について

本件考案においては、背金自体に「狭まり部」なる部分が設けられているが、イ号物件においては、背金自体には「狭まり部」なるものを設けず、手前側から一定の巾で先端に至るまで間隙部Bを設けている点で根本的に本件考案と異なる。

またイ号物件においては、背金3の割り込み部Dに板バネ9を着脱可能に嵌着した状態においてさえ、「狭まり部C」に該当する部分は存在しない。

(2) 構成要件(5)について

イ号物件においては、鋸替え刃4の掛け止め操作時には、鋸替え刃4は挟持点の相当手前から自由には回動しなくなってしまうのであり、本件考案の構成要件(5)を充足しない。

(3) 構成要件(6)について

イ号物件においては、鋸替え刃の完全装着時にあっては、鋸替え刃は専ら割り込み部Dに着脱可能に嵌着した板バネ9によって形成される挟持箇所Cによって挟持されているものであるし(線接触ではない。)、板バネ9は脱着可能である点において、挟持箇所は「恒久的」なものではない。

(4) 被告背金の構成は、平成六年に出願公告決定を受けた(昭和六三年五月出願)被告の考案の実施品である。

(三) 作用効果の相違について

(1) イ号物件においては、必要にして十分な挟持力がありながら鋸刃を装着しやすく、かつ、鋸刃装着(掛け止め操作)時の安全性も高い。

(2) イ号物件は挟持力の耐久性にも優れている。

イ号物件は、板バネ9によって背金に挟持箇所Cを形成する構造であるため、挟持箇所部分が若干磨耗したり背金の材料が疲労することがあっても板バネ9の力によっていつまでも挟持力が保たれ、また、仮に挟持力が弱まった場合にも板バネ9を取り替えることによって挟持力を回復することができる。

(3) イ号物件は製造の容易性、安定性においても優れている。

本件考案のように背金自体に恒久的な狭まり部を設ける場合、焼き入れの狂いやプレス時のスプリングバツク(反発による戻り)等により、均一に安定した製品を製造することが困難であるのに対し、イ号物件においては、板バネ9によって背金3に挟持箇所Cを形成する構成であるため、このようなことがなく安定して容易に均一な製品を製造することができる。

2  不正競争防止法違反の点について

(一) 本件替え刃の商品形態の商品表示性について

消費者は一般的には形態そのものよりも商品に付された商号や商標等によって出所を識別することがほとんどであり、商品の形態自体が周知された商品表示性を有することは極めて例外である。

鋸刃は機能と伝統が相まって大体において類似の形態となっており、昭和四四年ころからはレザーソー工業株式会社による替え刃式鋸「レザーソー」が大量に販売されているから、本件替え刃の形態が周知性ある商品表示性を持ち得るはずはない。

掛け止め部の形態はその機能に由来したありふれた形態であるうえ、原告らは本件替え刃を販売する際に掛け止め部を展示しておらず、替え刃の包装にも掛け止め部など描かれていないのであって、消費者が掛け止め部の形態により商品の出所を識別することはない。

さらに、原告ら主張のような掛け止め部の形態を有する製品は本件替え刃に限られるものではない。バクマ工業株式会社や、有限会社中屋鋸製作所等も製造、販売している。

したがって、消費者において掛け止め部の形態をみれば原告らの製品であると認識するなどということはあり得ない。

(二) 混同のおそれについて

仮に、本件替え刃の形態が周知性ある商品形態であるとしても、被告替え刃には「TAJIMA」「ゴールド鋸」と赤く目立つ文字をもって社名と登録商標を大書し、包装にも「TAJIMA」「ゴールド鋸」等の表示を極めて目立つように行っている。

したがって、消費者が混同などするはずがない。

(三) 故意について

被告は、創業明治四二年、設立昭和二〇年の会社であり、被告ブランドの浸透をはかりこそすれ、原告らの商品であると消費者に混同を生じさせようとするはずがない。

3  損害について

実用新案権侵害の点については、背金に関する利益に限定すべきであるが(柄の部分を含むべきでない)、背金の販売によって利益などでない。

四  被告の主張に対する原告の反論

1  実用新案権侵害の点について

(一) 狭まり部の形成位置について

(1) 図面の参酌について

「狭まり部C」の文言は、請求の範囲の記載上一義的かつ明確である。

被告は、狭まり部の形成位置の限定の根拠として図面記載の実施例の態様を主張するが、考案の技術的範囲は図面に示された態様に限定されるものではなく、添付図面はあくまで本件実用新案権の一実施例に過ぎない。

(2) 出願経過の参酌について

出願された考案の審査過程において提出される補正書や意見書は、特許庁審査官自身がその補正内容や意見書で示された見解を受け入れ、それに基づいて登録がなされた場合に、その限りにおいて実用新案の内容を解釈する資料となるものである。本件考案は、被告の引用する補正書や意見書に記載された特徴を有するものとして登録されたものではない。

すなわち、平成元年一二月二日付の原告岡田金属の手続補正書及び意見書の提出に対し、特許庁審査官は「縦方向の辺部と横方向の辺部を設けた点について格別の作用効果があったものと認められない」として拒絶理由通知を発したのであり、しかもその後の手続において、被告主張のように「狭まり部C」に限定を加えた見解は一切表明されていない。

よって、出願経過の参酌により本件考案の技術的範囲を被告主張のように限定することはできない。

また、被告は、挟持点により鋸替え刃が挟持される構成のもの(昭五三実公第一六七四号)も本件実用新案と同一であるとして登録異議申し立てを行っており、権利侵害の問題が持ち上がるや、点で挟持するものは権利範囲に属さないというような主張を行うのは禁反言の原則に反する。

(3) 仮に、本件考案における「狭まり部C」が縦辺部全体あるいは横辺部全体に形成されたものに限定されると解釈するとしても、イ号物件はその要件を充足している。

すなわち、イ号物件にあっても先端縦辺部全体に鋸替え刃4の厚み以下に設定した「狭まり部」が形成された構成となっている。(イ号物品の寸法測定表によれば、イ号物件の縦方向の辺部は下方部分の間隙が零ミリで、上方部の間隙の平均値が〇・一七ミリとなっており、縦方向の辺部に鋸替え刃の厚み以下に設定した狭まり部が形成された構成となっている。)

(二) 狭まり部の形成方法について

狭まり部の予備成形が不可欠であるとの主張は、審決取消請求事件において、本件考案が原告岡田金属の旧実用新案から容易に推考できるという被告の主張に対する反論として、狭まり部の成型方法の一例として主張されたもので、狭まり部の形成方法をこれに限定する趣旨ではない。

(三) 請求の範囲に背金3全体に対して焼入れ加工を施した構成の実施例が記載されていることについて

考案の技術的範囲は明細書並びに図面に記載された実施例に限定されないし(実施例不拘束の原則)、本件考案にあっては焼入れ加工を施さない場合の実施例も記載されている。

イ号物件の板バネ自体にも焼入れ加工が施されており、結局背金全体に焼入れ加工を施した構成となっている。

(四) 作用効果の相違について

(1) 被告の主張の1(三)(1)記載のイ号物件の特徴は、背金を構成する鋼板の厚さ、硬度、背金の上辺部から下辺部までの長さ、鋸刃の支持部5から狭まり部までの距離等、単なる背金の設計上の問題にすぎず、イ号物件に基づく特有の効果ではない。

また、装着時における安全性の点も、挟持状態の開始時における角度設定という単なる背金の設計上の問題にすぎず、作用効果の点から見れば特有の効果ではない。

(2) 同(2)記載の耐久性の問題は、背金を構成する鋼材の材質によるものであり、本件考案の効果とは無関係である。

良質の素材により一体的に狭まり部を形成しておれば、通常の使用状態で狭まり部が変形するといったようなことはあり得ず、あえて板バネを配置させ、劣化した場合の対策等を講じておく必要性はない。

(3) 同(3)の製造の容易性、安定性については、イ号物件における板バネ9自体、プレス加工を施した後焼き入れ処理をすることによって形成されるので、板バネ9を形成する際にも焼き入れ時に狂いが生じ、またプレス加工時におけるスプリングバツクが生じる可能性があるものである。

また、狭まり部を形成するために板バネを使用しない本件考案の製造方法の方が、無駄な組立作業工程を不要とし、より製造が容易であるといえる。

(4) 以上のとおり、被告主張の作用効果の違いは、いずれも単なる背金の設計上あるいは製造技術上の問題に関するものにすぎない。

2  不正競争防止法違反の点について

(一) 本件替え刃の商品形態の商品表示該当性について

(1) 被告替え刃及び被告商品の製造、販売が開始された平成元年以前に、原告らは昭和五〇年発売の替え刃式鋸「パネルソー」以来既に一四年間にわたって特徴的な掛け止め部を有する替え刃を大々的に宣伝、広告し、本件替え刃については合計約一一二四万個も製造、販売してきたので、包装上に掛け止め部が表示されていなくても取引者や一般需要者は本件替え刃の掛け止め部の形態を原告らの商品であることを表示するものとして認識していたことは明らかである。なぜなら、替え刃を使用する際には必ず包装を外し、背金に掛け止め部を装着するために掛け止め部の形態をよく見るからである。

(2) 原告岡田金属が「パネルソー」を製造、販売する前に、レザーソー工業株式会社が替え刃式鋸「レザーソー」を製造、販売していたことは何ら本件替え刃の周知性を否定する根拠にならない。

「レザーソー」の替え刃は、鋸柄への取り付け部が掛け止め式ではなく、下面に凹陥部を有する長い短形であり、本件替え刃の掛け止め部とは全く形態が異なるものであるからである。

また、原告らの周知表示性ある本件替え刃を模倣しているものが被告以外に存するとしても、そのことが本件替え刃の周知性を否定する根拠とはならない。

有限会社中屋鋸製作所は、平成元年頃本件替え刃と類似する商品の製造、販売を開始したが、原告らが平成三年ころその違法性を主張して中止を求めたところ、販売中止を確約した。

バクマ工業株式会社は、平成二年ころから本件替え刃をそっくり模倣した替え刃の製造、販売を開始したので、原告らは平成五年四月六日差止め等を求める訴訟を提起した。

(3) 替え刃の形態のうち鋸柄への取り付け部となる掛け止め部の形態は、鋸刃という本来の機能に由来するものではない。それぞれの製造者によって独自の形態を選択しうる部分である。

(二) 混同のおそれについて

被告替え刃上に記載されている「ゴールド鋸」は、「二六五」などの数字の半分の大きさであり、「TAJIMA」は僅か四分の一程度の大きさにすぎず、目立たない存在で自他識別力はない。

包装のうえに小さく目立たない文字で表示されている「TAJIMAツール」の表示もまた同様である。

「ゴールド鋸」の文字は、「スーパー」のように単なる品質とか等級を表示する語として慣用されているものであり、商品の出所表示機能を有しない。

第五  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

第一  実用新案権侵害について

一  請求原因1(当事者)、2(本件実用新案権)及び3(一)(本件考案の構成要件)の各事実は当事者間に争いがない。

二  本件考案の技術的範囲について

1  被告は、本件考案の技術的範囲の解釈にあたっては、考案の詳細な説明及び図面の記載、本件実用新案登録に至る出願経過を参酌して、狭まり部Cの形成位置、形成方法、背金3の対象について限定を加えるべきであると主張するので、この点につき検討する。

実用新案登録にかかる考案の技術的範囲は、明細書記載の請求の範囲に基づいて決定されるべきであるが(旧実用新案法二六条、平成五年法律第二六号による改正前の特許法[以下「旧特許法」という。]七〇条)、請求の範囲の記載が一義的に明確でない場合には、考案の詳細な説明及び図面等を参酌してその意味内容を解釈することができるし、また、出願人が実用新案登録に至る出願過程において、考案の技術的範囲について一定の主張をし、それが特許庁審査官に受け入れられた結果、登録査定がなされたといった事情が存する場合においては、後に実用新案権者が実用新案権に基づく侵害訴訟において右の主張と矛盾する主張をすることは信義誠実の原則、禁反言の原則に照らして許されず、考案の技術的範囲も右経過を参酌して限定して解釈されることになる。

2  狭まり部Cの形成位置について

被告は、本件実用新案登録に至る出願経過等を参酌すると、狭まり部Cの形成位置は、背金の縦方向の辺部全体、横方向の辺部全体又は両辺部全体に限定されると主張する。

(一) 弁論の全趣旨より真正に成立したと認められる甲第二号証及び第三号証の、二によれば、次の事実が認められる。

(1) 原告岡田金属は、本件考案の出願願書において、登録請求の範囲として、「柄2の先端部に背金3を取り付け、柄2への鋸替え刃4の取り付けに際しては、背金3の内側に形成した支持部5に、鋸替え刃4の凹部6を掛け合わせるように形成した構成の替え刃式鋸において、支持部5の下方付近は、鋸替え刃4の端部Aを差し入れ得る間隙部Bを形成するとともに、背金3の他の箇所に、間隙を少なくした狭まり部Cを形成したことを特徴とする替え刃式鋸」と記載し、その詳細な説明に、〈1〉鋸刃を任意に取り替えられる構成の替え刃式鋸は従来技術にもあったが、従来技術は厚みの異なる鋸替え刃に対しては使用できない不便さがあったが、右出願にかかる考案は、鋸替え刃を係合させるための背金の改良に関するものであって、背金に、替え刃を差し入れる間隙部を形成するとともに、背金の一定個所に、その間隙を少なくした狭まり部を形成した構成とすることによって、従来技術の前記問題点を解決しようとするものである、〈2〉(右考案の背金は)、鋸替え刃を差し入れ得る間隙部と、その間隙部を絞り込むことによって形成せられた狭まり部Cを有するとともに、右間隙部内に、鋸替え刃掛け止めのための支持部5を有し、かつ、その支持部の下方位置あるいは背金の中間部又は背金の前方部に、鋸替え刃4の端部Aを差し入れ得るだけの間隙部Bを有する形の金属板をもって形成されていると同時に、その焼き入れ加工を施した構成となっているが、背金3全体に対する焼き入れ加工は、背金における狭まり部Cの形状を長期間にわたって維持するためものであるが、右考案の不可欠の要件ではない等の記載をした。

(2) その後、原告岡田金属は、特許庁長官に対して提出した早期審査に関する事情説明書において、右出願にかかる考案は、先行技術(実公昭五三-一六七四号・以下「先行技術」という。)と技術的共通性が見受けられるので、補正案を提示するとして、「柄2の先端部に背金3を取り付け、柄2への鋸替え刃4の取り付けに際しては、背金3の内側に形成した支持部5に、鋸替え刃4の凹部6を掛け合わせるように形成した構成の替え刃式鋸において、背金3の全体の長さを、替え刃4の手前側基部のみを支持する寸法に設定するとともに、その先端部と下方縁部とにそれぞれ辺状部7・8を形成し、支持部5の下方付近には、替え刃4の端部を差し入れ得る間隙部Bを形成する一方、上記辺状部7あるいは8、又は、その両辺部7、8には、替え刃の厚み以下に設定した恒久的な狭まり部Cを形成したことを特徴とする替え刃式鋸における背金の構造」との補正案を提示し、〈1〉先行技術にかかる背金にあっては、背金によって替え刃の背全体を挟持する構成となっているのに対し、右出願にかかる考案の背金にあっては、背金全体の長さが替え刃の手前側基部のみ支持する寸法に設定されているという点で違いがあり、〈2〉先行技術にあっては、需要者による鋸の使用中に背金の挟持力が弱くなった場合に、先尖り状の又状部をプライヤー等で適宜締め付けることによって、挟持力の向上を図るという構成であるのに対し、右出願にかかる背金にあっては、背金の狭まり部の状態を焼き入れや押さえ金具の嵌合等の手段で恒久的に維持し得る構成となっているという点で違いがあり、〈3〉また、先行技術にあっては、背金の先端に、先尖り状の又状部を形成し、その先端部をプライヤー等で締め付けるという構成であるのに対し、右出願にかかる背金にあっては、背金の先端部と下方縁部とにそれぞれ辺状部7、8を形成し、その辺状部7あるいは8、又は、その両辺部7、8に、替え刃4の厚み以下に設定した恒久的な狭まり部Cを形成した構成であるとい点で違いがあり、右〈3〉の違いによりもたらされる効果の違いは、先行技術のように先尖り状の又状部13に対してプライヤー等の締め付け工具を用いて締め付け作業を行っても、その先尖り状の先端部だけが合掌した形となり、鋸刃に対する挟持力は、単に、点接触による極めて弱いものであるのに対し、右出願にかかる背金にあっては、背金に形成された辺状部7あるいは8、又は、その両辺部に対して全体的狭まり部を形成した構成となっている結果、鋸刃に対する挟持力は、線接触により得られる状態となり、先行技術に比べ背金による挟持力を極端に向上させ得るという利点がある旨の説明をした。

右先行技術の実用新案登録請求の範囲は、「鋸刃保持部を有する柄と、その鋸刃保持部に着脱できるように別個に形成された片刃の鋸刃とからなり、上記鋸刃の保持部が上記鋸刃の基端部とその基端部に連なる背部とを挟持し得る幅の挟持溝を有し、その挟持溝の上記鋸刃基端部を挟持する部分の溝底から所定寸法だけ離れた溝内に上記溝底に向かって突出するように側面形状が円弧状に形成された係止部を上記溝の両側部に跨って固定的に設け、上記鋸刃が背部を上記溝底に接して上記挟持溝内に挟持された状態において上記係止部に係合する凹所を上記基端部に刃の側から切欠き形成しかつ上記背部側に連なる基端部の縁を上記係止部の上記円弧に略略沿って滑らかに上記背部側に連なるように形成したことを特徴とする鋸」と記載されるものであった。

(3) さらに、その後に提出した特許庁長官に対する手続補正書及び意見書において、前記事情説明書記載の観点から、請求の範囲の記載を「その(背金の)先端部に縦方向の辺部7と該辺部に続く横方向の辺部8とを形成し、支持部5の下方付近には、替え刃4の端部Aを差し入れ得る間隙部Bを形成する一方、上記辺部7全体あるいは8全体、又はその両辺部7並びに8全体に、替え刃4の厚み以下に設定した恒久的な狭まり部Cを形成したことを特徴とする」と補正した。

(二) しかし、他方で、前掲甲第三号証の一及び二、成立に争いのない甲第一六号証の一、二、第一八号証、第四二ないし第四四号証によれば、次の事実が認められる。

(1) 原告岡田金属の右補正案に対し、特許庁審査官は「縦方向の辺部と横方向の辺部を設けた点に格別の作用効果があったものとは認められない。また、辺部全体に狭まり部を設けた点は、先行技術の実用新案登録の請求の範囲の『背部とを・・挟持溝』の記載により十分想到し得る事項であると認められる。なお、先行技術に示された技術は、その詳細な説明に記載されているとおり、鋸刃は挟持溝で挟持するのであって、先端部のみで挟持するものではないと認められる。」として拒絶理由通知を発した。

(2) これに対し、原告岡田金属は、請求の範囲の記載を補正し、狭まり部の形成位置を「背金3における支持部5よりも前方側で、かつ、背金3の下方側付近、あるいは、背金3の先端側付近」とした。その後、明細書と図面の記載が対応していないことを理由とする拒絶理由通知に対し、原告岡田金属は辺部にふられた番号7、8を削除した図面を提出し、これに基づいて出願公告決定がなされた。

(3) その後、被告から、平成三年二月、本件考案は先行技術の考案と同じであるとして登録異議申立てがなされ、これに対し特許庁審査官は、平成四年八月二六日、先行技術は、基本的には挟持溝全体で鋸刃を挟持しており、必要に応じてさらに付加的に又状部により挟持しているものと解されるものであり、本件考案の「背金の下方側付近、あるいは、背金の先端側付近に形成した鋸替え刃の厚み以下に設定した狭まり部」を形成し、「専ら・・・狭まり部によって、挟持する」というものとは異なり、右の点により本件考案はその明細書記載の作用効果を生ずるものと認められるとして、登録異議の申立てを理由がないものとする決定をなした。

(三) 以上認定の経過に照らせば、狭まり部Cの形成位置を辺部に限定したことにより、本件考案が登録に至ったとは認められないのであって(むしろ、辺部に限定したことは拒絶理由の対象となっている)、狭まり部Cの形成位置に関して出願経過における原告岡田金属の主張を参酌して請求の範囲に記載のない限定を付すべきものとは認められない。

また、被告は図面の参酌を主張するが、図面は考案の一実施例を示すものにすぎず、考案の技術的範囲が図面記載の態様のものに限定されるわけではない。

よって、狭まり部Cの形成位置に関する被告の主張は採用できない。

3  狭まり部Cの形成方法について

被告は、本件考案の無効審判の審決に対する審決取消訴訟において原告岡田金属が、狭まり部Cの形成方法に関して、一定の主張をしたことに基づき、右一定の方法によって形成される狭まり部を有するもののみが本件考案の技術的範囲に属する旨主張し、確かに成立に争いのない乙第二六号証及び弁論の全趣旨によれば、原告岡田金属は、本件考案の無効審判の審決取消訴訟(東京高等裁判所平成七年(行ケ)第五号事件・同年一二月七日付準備書面)において、「本件考案においては、素材板を二つ折り成形の工程を経る前に『狭まり部の予備成形』が不可欠である」との主張をしたことが認められる。

しかしながら、実用新案権の技術的範囲は、その設定の登録により権利が発生した時点において客観的に確定しているものであって、その後の権利者の主張如何によって権利の範囲が左右されるものではなく、権利発生後の権利者の主張は、出願登録過程における権利者の認識を推知する一資料として参酌しうるにすぎない。

そして、前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件考案の明細書中の請求の範囲、考案の詳細な説明の記載及び出願過程における原告岡田金属の主張のいずれにも狭まり部Cの形成方法に関する限定はなされていないことが認められるのであって、たとえ狭まり部Cの形成方法に関する原告岡田金属の主観的認識が、被告主張のようなものであったとしても、これを表す客観的資料がない以上、技術的範囲を限定して解釈することはできない(背金3についての焼き入れ加工が本件考案の不可欠の要素でないことは、原告においてその出願当初から主張していたことは、前記2(一)認定の本件考案登録の経過から明らかである。)。

よって、狭まり部Cの形成方法の限定に関する被告の主張は採用できない。

3  背金3の対象について

被告は、明細書の記載を総合的に解釈して背金3の対象を限定すべきであると主張するが、前掲甲第四号証によれば、本件考案において、「背金」とは請求の範囲に記載された構成を具備し、種々の厚みをもった鋸替え刃を装着しうるという効果を奏するものそれ自体をいうのであって、それが一つの部材からなるか又は複数の部材からなるかは考案の技術的範囲に属するか否かの判断を左右するものではない(なお、原告においても、本件考案についての出願審査の過程で特許庁長官に対して提出した早期審査に関する事情説明書において、背金の狭まり部の形成につき金具の嵌合の方法をとることもあることを指摘していたことは、前記2(一)(2)認定のとおりである。)。

また、明細書記載の実施例を根拠とする主張についても、考案の技術的範囲は実施例に限定されるものでないから、採用できない。

よって、背金3の対象に関する被告の主張は採用できない。

三  本件考案の作用効果(請求原因3(二))について

前掲甲第四号証によれば、請求原因3(二)の事実が認められる。

四  被告の製造・販売について

請求原因4の事実のうち、被告が平成元年六月頃から平成六年七月末まで被告鋸柄を業として製造、販売していたことは、当事者間に争いがない。

被告は、平成六年八月一日以降は、被告鋸柄の製造、販売を中止した旨主張しており、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第九ないし第一二号証及び弁論の全趣旨によれば、右の事実が認められる。

これに対し、原告らは、平成六年八月以降も小売店において被告鋸柄を用いた被告商品が販売されていたと主張し、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五六ないし第六一号証及び被告商品の写真であることにつき争いのない検甲第五一ないし第五五号証によれば、平成七年三月にイ号物件を装着した被告商品が小売店で販売されていた事実が認定できるが、製造業者が製品の製造、販売を中止した場合にも、その後一定期間は既に市場に流出した商品が末端の小売店で販売されることは通常予想されることであり、右事実をもって、被告がその後も被告鋸柄を用いた製品を製造、販売していたものと認めることはできない。

五  イ号物件の構成(請求原因5(一))について

請求原因5(一)の事実(イ号物件の構成)は、当事者間に争いがない。

六  イ号物件の作用効果(請求原因5(二))について

イ号物件に異なる厚みの鋼板を装着した状態の写真であることにつき争いのない検乙第八号証の一ないし七及び弁論の全趣旨によれば、イ号物件は、背金における鋸替え刃の差し入れ部となる「間隙部」と鋸替え刃の挟持部となる「挟持箇所」とを区別した形で形成し、鋸替え刃の完全装着時においては、専ら「挟持箇所」により鋸替え刃を挟持させる構成とすることにより、同じ鋸柄に対して、種々厚みの異なった鋸替え刃の装着を可能にするという作用効果を奏する。

なお、被告は本件考案とイ号物件との作用効果の相異として鋸刃装着時の安全性、挟持力の耐久性及び製造の容易性、安定性を主張するが、イ号物件が、被告主張の格別の作用効果を奏すると認めるに足りる証拠はない。

七  本件考案の構成要件とイ号物件の構成との対比(請求原因6)について

1  請求原因6(一)の事実(本件考案の構成要件(1)ないし(3)及び(7)の充足性)は、当事者間に争いがない。

2  請求原因6(二)(構成要件(4)の充足性)について

イ号物件においては、「板バネ9により、背金3を前端かつ下端の挟持箇所Cに至るまで下方側の手前から先端に向かうにしたがって、また、先端の上方から下方に向かうにしたがって、それぞれ次第に狭まらしめ」ることにより、間隙部Bを背金3の先端かつ下方付近に形成された鋸替え刃4の厚み以下の巾に設定された部分にまで継続された構成となっており、イ号物件の構成(4)は本件考案の構成要件(4)を充足する。

なお、イ号物件の構成のうち、板バネ9を嵌着したとの点は、狭まり部の形成方法の相異に過ぎず、構成要件の充足性には無関係である。また、イ号物件は、板バネ9によって挟持箇所Cを形成しているものであるので、板バネ9を外してしまえば鋸替え刃を挟持しえないものとなり替え刃鋸の背金の機能を失い用をなさなくなるから、イ号物件にあっては板バネ9を装着したものが背金であるというべきであるし、その板バネ9が着脱可能か否かも、構成要件の充足性に無関係である。

3  請求原因6(三)(構成要件(5)の充足性)について

イ号物件の構成要件(5)のうち「背金3への鋸替え刃4の掛け止め操作時にあっては、背金3の内側の間隙の巾が鋸替え刃4の巾より大きい部分では鋸替え刃4を自由に回動させ」との部分は、本件考案の構成要件(5)の「背金3への鋸替え刃4の掛け止め操作時にあっては、鋸替え刃4の背部が該狭まり部Cに至るまでは挟持状態となることなく自由に回動させるようにする」の部分に該当するので(本件考案においては、構成要件(4)記載のとおり狭まり部Cに至るまで背金3の内側を鋸替え刃4の基部を容易に差し入れうる巾に設定して解放してある)、イ号物件の構成(5)は本件考案の構成要件(5)を充足する。

なお、イ号物件の構成(5)においては、間隙の巾が鋸替え刃4の厚み以下の部分における鋸替え刃4の回動状態も記載されているが、この点は構成要件の充足性には無関係であるし、また、本件考案においても、鋸替え刃4の背部が狭まり部Cに達した後は、鋸替え刃4は背金の内側と接触状態を保ちながら狭まり部Cを次第に押し拡げるように回動することは自明であるから、いずれにしても構成要件(5)の充足性には影響しない。

4  請求原因6(四)(構成要件(6)の充足性)について

本件考案の構成要件(6)の狭まり部Cが「恒久的」であるとの意義は、明細書中の考案の詳細な説明の記載を参酌すれば、鋸替え刃4の着脱操作の繰り返しによっても狭まり状態が継続することであると解されるが、イ号物件においても、板バネ9は割り込み部Dに嵌着されているものであって(イ号物件の構成(4))、板バネ9によって形成された挟持箇所Cは鋸替え刃4の着脱操作の繰り返しによっても狭まり状態が継続するものであると認められるから、挟持箇所Cは「恒久的」であるといえる。

また、被告は、本件考案の狭まり部Cは、」前記被告主張のとおり背金の辺部に設けられ、鋸刃装着時には線接触の態様になるものを指すが、イ号物件の挟持箇所Cは辺状ではなく、鋸刃装着時には線接触の態様にはならない旨主張するが、本件考案においては狭まり部Cが辺部に限定されるものでないことは前述のとおりである(なお、弁論の全趣旨によりイ号物件を撮影した写真と認められる検甲第四七号証の六、七、第四八号証の一、二によれば、イ号物件も、鋸替え刃装着時には、背金の前方において線接触の状態になることが認められる。)。

したがって、イ号物件も本件考案と同様に、鋸替え刃4の完全装着時にあっては、専ら恒久的な挟持箇所Cによって挟持され、背金3の他の内壁面部分は鋸替え刃4の側面部に対して圧接状態とならないように形成したという構成を有するものであると認められるから、イ号物件の構成(6)は本件考案の構成要件(6)を充足する。

5  以上検討したところによると、イ号物件は本件考案の構成要件を全て充足する構成を有するものであり、その作用効果も同じであるから、イ号物件の製造、販売は、本件実用新案権を侵害する。

八  差止めの必要性(請求原因7)について

1  弁論の全趣旨より被写体が被告鋸柄及び被告替え刃であると認められる検甲第一二ないし第二〇号証、第二一ないし第二三号証の各一ないし三によれば、被告鋸柄においては、イ号物件(背金)が把持柄と物理的、機能的に一体となって取り付けられていることから、本件実用新案権を保護するためには、被告鋸柄全体の製造、販売の差止を認める必要がある。

2  前記のとおり、被告は本件訴訟が提起された後の平成六年八月以降は被告鋸柄の製造、販売を中止したことが認められ、さらに被告は、改良品である新製品の製造、販売をしているから旧製品である被告鋸柄の製造販売の可能性はない旨主張するが、被告はイ号物件が本件考案の技術的範囲に属することを争っているのであり、このような被告の対応からすれば、被告において将来被告鋸柄を製造、販売するおそれがあるものと推定されるから、その製造、販売の差止めを認める必要性があるといえる。

九  原告らによる本件背金の製造、販売(請求原因8)について

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第九、第三六号証及証人岡田隆夫の証言並びに弁論の全趣旨によれば、請求原因8の事実が認められる。

一〇  損害(請求原因9)については後記のとおり。

第二  不正競争防止法違反について

一  原告らによる本件替え刃及び本件商品の製造、販売(請求原因9)について

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第九号証、第三六号証及び弁論の全趣旨によれば、請求原因9の事実が認められる。

二  本件替え刃の商品形態の商品表示該当性(請求原因11)について

1  弁論の全趣旨から本件替え刃の写真であることが認められる検甲第三一、第三二、第三七、第三八、第四三号証及び第四四号証によれば、本件替え刃は、基部側の巾が先端側の巾よりやや狭くなっている細長い矩形状であり、鋸柄への装着部となる替え刃の基部側上方位置に大円弧部を形成するとともに、該円弧部と同心円上にある小円弧部を形成することによって、フック状の掛け止め部を形成していること及び背凹部が存在するという形態を有していることが認められる。

2  原告らは、右形態のうち、掛け止め部の形態、背凹部の存在及び赤色の寸法表示が本件替え刃の形態的特徴であり、出所表示機能を有する部分である旨主張するので、この点について検討する。

(一) ところで、商品の形態自体は、本来その商品が果たすべき実質的機能をよりよく発揮させ、あるいは、美観を高めるという見地から選択されるものであって、商品の主体を表示することを目的として選択されるものではないが、その形態自体が同種商品の中にあって独特の形状を有し、あるいは同一商品形態の相当長期の使用、強力な宣伝活動などの結果、第二次的に商品の主体を識別する機能を取得し、商品表示としての性質を備えるに至る場合があり、こうした場合、その商品の形態自体が不正競争防止法二条一項一号にいう「他人の商品表示」(旧不正競争防止法一条一項一号にいう「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」)に該当するものと解される。

(二) 証人岡田隆夫の証言(以下「岡田証言」という。)、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八号証、第一九号証、第二七の一ないし一八九、第二八号証の一ないし一八、第二九号証の一ないし九三、第三二号証、第六九号証の一ないし一七七、第七〇号証の一ないし一三三、成立に争いのない甲第四五号証、弁論の全趣旨より「レザーソー」の替え刃及びその包装紙を複写したものと認められる検甲第三一号証(そのうちの1、2の写真)、弁論の全趣旨より本件替え刃の販売時の状態の写真であると認められる検甲第五〇号証の一ないし三、弁論の全趣旨より本件商品の販売時の状態の写真であると認められる検甲第二七号証、第三三号証、第三九号証並びに弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

(1) 替え刃式鋸の出現以前は、鋸柄と鋸刃を一体的に取り付けた形態の鋸が一般的であったところ、昭和四〇年代ころより鋸刃を激しく傷める集成材等の新建材の出現及び目立てにかかる費用の高騰等により、かかる一体的形態の鋸の不便さが顕在化し、替え刃式鋸が製造、販売され始めた。昭和四四年ころレザーソー工業株式会社によって製造、販売が開始された替え刃式鋸「レザーソー」は、替え刃式鋸で初めて大量生産、大量販売に成功した商品であるが、右商品は、柄の下方に取り付けたネジを締め込むことによって鋸刃を鋸柄に取り付けるという方式を採用していた。

(2) 原告岡田金属は、右状況において、昭和五〇年には、回転着脱方式の替え刃式鋸につき「パネルソー」の商品名称で製造、販売を開始し、かかる形態の替え刃式鋸について実用新案権を取得した(右権利は、昭和六三年一月一八日に消滅している。)。右実用新案権にかかる考案においては、鋸柄内に側面形状が円弧状に形成された掛止め部を設け、鋸刃基端部に右掛止め部に係合する凹部を右基端部の刃の側から切り欠き形成し、背部側に連なる基端部の縁を右掛止め部の円弧に略略沿って滑らかに形成することにより、鋸刃を鋸柄内の掛止め部に掛け合わせ、掛止め部を中心として鋸刃を回動させることによって鋸刃を鋸柄に取り付ける技術的思想が開示されている。

(3) 原告岡田金属は、昭和五七年七月に本件替え刃のうち「ゼットソー・二六五」の、昭和五九年八月に「ゼットソー・八寸目」の、昭和六一年六月に「ゼットソー・三〇〇」の製造、販売をそれぞれ開始したが、その販売実績は、請求原因12(一)のとおりで、本件替え刃、本件商品の宣伝、広告は、請求原因12(四)のとおりに行われ、昭和五七年には、本件商品のうち「ゼットソー・二六五」が三木市の殖産品に指定された。

(4) 原告岡田金属の右実用新案権が消滅した後の平成元年ころからは、本件替え刃と類似の掛け止め部を形成した回転着脱方式の替え刃を販売する業者が出現してきた。

(5) 本件替え刃は、錆を防止するため包装袋に入れて販売されているが、右包装袋には替え刃の全体形状が印刷されており、掛け止め部の形態も認識しうるようにされている。

右認定の本件替え刃及び本件商品の販売期間、販売実績、広告宣伝活動等によれば、同業他社が回転着脱式鋸替え刃の製造、販売を開始する平成元年ころには、本件商品及び本件替え刃は、「ゼッソー」の商品名で鋸替え刃の需要者の間で周知性を獲得していたものと認定できる。

さらに、本件替え刃の掛け止め部の形式は、原告岡田金属の開発にかかる独自のものであること及び原告岡田金属は、昭和五〇年から昭和六三年ころまでの間、回転着脱方式の掛け止め部を有する替え刃をほぼ独占的に製造、販売していたことが認められる。

(三) しかしながら、本件替え刃の掛け止め部の形態は、鋸柄への装着に際し回転着脱方式をとるという技術的機能を実現するための機能的制約に基づく形態であり、商品表示性は有しないといえる。すなわち、替え刃の取引者、需要者においては、一定の鋸柄(需要者であれば自己の有する鋸柄)に装着可能かという観点も商品選択の基準とし、鋸装着部の形態にも注意を払うものと考えられるが、その場合には、替え刃の装着可能性という技術的機能面に着目しているにすぎず、掛け止め部の形態自体から原告らの商品であると識別しているものとは認められないからである。

また、原告らが商品表示性を有する形態的特徴として主張する背凹部の存在は、替え刃の全体形状からみて目立たない部分であり、取引者、需要者が背凹部の存在によって、商品主体を識別しているものとは認め難いから、原告の右主張は採用できない。

替え刃の取引者・需要者はその切れ味、耐久性等の品質、値段をも商品選択の重要な基準としているものと考えられ、鋸刃やその包装袋に表示された商標等によって、品質等ひいては当該商品の出所を識別しているものと考えられることから、本件商品は、その形態にではなく、鋸刃やその包装袋に印刷表示された商品名等の商標に出所識別機能を有するものと認められる。

この点について、原告らは、本件替え刃に寸法を赤色で表示している点をもって商品表示性を有するものと主張するが、本件替え刃においては、寸法表示は、「ゼットソー HI ハード・インパルス」との赤色印刷の部分と一体となって商標を構成しているにすぎず、その意味も本件替え刃の形状(長さ)を表すもので、それ自体に商品主体を識別する機能があるとは認め難い。

以上により、原告らが主張する本件替え刃の形態的特徴等はいずれも本件替え刃の商品表示性を有するものとは認められず、したがって、その余の点に付き判断するまでもなく、本件替え刃が右商品表示性を有することを前提とする不正競争防止法違反に基づく原告らの主張は理由がない。

第三  損害(請求原因18)について

一  前述のところからすれば、原告岡田金属の本件実用新案権は平成二年一一月二〇日に出願公告され、平成五年二月一二日に登録されたものであり、右各日以降の被告による被告鋸柄の製造販売は、原告岡田金属の本件考案についての仮保護の権利及び本件実用新案権を侵害するものである。そして、右被告の侵害行為については、旧実用新案法一二条一項及び二項、三〇条、旧特許法一〇三条に基づき、過失があったものと推定される。

しかし、右本件実用新案権の出願公告前においては、原告岡田金属は本件考案について実用新案法上の実施権を取得していなかったから、被告の被告鋸柄製造販売行為は右実施権を侵害するものではなく、したがって、被告には原告岡田金属主張の不法行為は成立しない。

二  また、前記(第一、九)認定の経緯によれば、原告ゼット販売は本件実用新案権につき独占的通常実施権を有していたものと認められ、したがって、被告の被告鋸柄の製造販売は右原告ゼット販売の権利を侵害するものというできある。

そして、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三六号証及び岡田証言によれば、原告ゼット販売は、原告岡田金属の子会社として設立され、原告岡田金属の製品を独占的に販売していた会社であり、本件鋸柄を含む原告岡田金属製造の商品につき原告岡田金属と連名で宣伝広告をしていたことが認められ、右原告らの関係及び前記認定の本件実用新案権登録の経過(殊に、被告は本件実用新案権の登録前に登録異議の申立てをしたがこれを却下された経緯)にかんがみれば、本件実用新案権登録後における被告の本件鋸柄の製造販売行為については、原告ゼット販売に対する関係においても、少なくとも過失があったものと認められる。

しかし、原告岡田金属の本件実用新案の出願公告前においては、本件考案についての原告岡田金属の実用新案法上の実施権は未だ成立していなかったことは前述のとおりであるから、右権利の成立を前提とする原告ゼット販売主張の被告の不法行為の成立は認められない。

三  そこで、右認定の被告の不法行為により原告らが被った損害の額につき検討する。

1  原告岡田金属が被告の本件実用新案権及び右仮保護の権利の侵害による不法行為に基づき被った損害の額は、被告が本件実用新案権侵害行為により得た利益の額と推定される(旧実用新案法一二条二項、二九条)。

2  また、原告ゼット販売が被告の本件実用新案権についての独占的通常実施権侵害の不法行為により被った損害は、被告の右不法行為がなければ取得し得たであろう販売利益の喪失分である

3  そして、弁論の全趣旨より真正に成立したものと認められる甲第六二号証の一ないし一三、第六四号証の一ないし一六、第六五号証の一ないし四八及び岡田証言並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告らにおいては、平成七年三月から四月にかけで関東、近畿、中部各地の通常「ホームセンター」と呼ばれる量販店六四店舗の店頭で、原告らの商品のうち本件鋸柄一丁と替え刃一枚を組合わせた商品(以下「原告商品」という。)と被告商品の展示数量の調査をしたところ、被告商品の展示数量は、原告商品の展示数量の約三一パーセントの数量であった。

(二) 右のような量販店においては、いわゆる「POSシステム」と呼ばれるバーコードシステムが導入されており、右システムの導入の目的は、在庫を抱えずに、販売した商品の補給を速やかに行うことにあるので、店頭の展示品が当該店舗の在庫品のすべてないしこれと近似する数量のものといえる。

(三) 原告商品の平成元年ないし同六年度(一年度は一二月一日から一一月三〇日まで)の各販売数量は次のとおりである。

平成元年度 四三万五九九二丁

平成二年度 三六万九一三二丁

平成三年度 四二万四〇六二丁

平成四年度 三七万八二二〇丁

平成五年度 四一万二八七二丁

平成六年度 三一万五〇五四丁

(四) 原告商品一丁についての販売利益及び原告商品に組合わされている替え刃のみ販売する場合の一枚についての販売利益は、以下のとおりである。

(原告商品一丁についての販売利益)

平成元年度 四一三円程度

平成二年度 二六四円程度

平成三年度 二三八円程度

平成四年度 一八六円程度

平成五年度 一〇九円程度

平成六年度 一八一円程度

(替え刃一枚についての販売利益)

平成元年度 二一三円程度

平成二年度 一二二円程度

平成三年度 一〇〇円程度

平成四年度 七九円程度

平成五年度 四六円程度

平成六年度 七六円程度

したがって、本件鋸柄一丁のみの販売利益以下のとおりとなる。

(原告商品一丁についての販売利益から替え刃一枚についての販売利益を控除した額)

平成元年度 二〇〇円程度

平成二年度 一四二円程度

平成三年度 一三八円程度

平成四年度 一〇七円程度

平成五年度 六三円程度

平成六年度 一〇五円程度

4  右認定の量販店のシステムによれば、店舗展示数量が販売数量となるものとして推計する方法はそれなりに合理性があり、被告において合理性のある反証をなさない本件においては、右推計の方法を採用するのを相当と認める。

これによれば、被告商品の販売数量は、以下のとおりとなる(原告商品の各年度の販売数量×〇・三一)。

平成元年度 一三万五一五七丁

平成二年度 一一万四四三〇丁

平成三年度 一三万一四五九丁

平成四年度 一一万七二四八丁

平成五年度 一二万七九九〇丁

平成六年度 九万七六六六丁

そして、被告の右商品販売による原告岡田金属に対する不法行為期間は、平成二年一一月二〇日(本件考案の出願公告の日)から平成六年七月末までであるから、右期間中の右被告商品の販売数量は次のとおりとなる。

(一) 平成二年一一月二〇日から同年一一月三〇日まで(一一日間)

三七〇丁 (135,157×11/365=370)

(二) 平成二年度から平成五年度まで前記のとおり。

(三) 平成五年一二月一日から平成六年七月三一日まで(八か月間)の販売数量

六万五〇二一丁(97,666×243/365=65,021)

5  そして、被告商品の材質、内容及び被告の特段の反証のないことに照らし、被告は被告商品一丁の販売により被告鋸柄部分について原告による本件鋸柄の販売利益と同程度の利益を得ていたものと推認するのが相当であり、その額は、前記(一)ないし(三)認定の被告商品の販売数量をもとにすると、以下のとおり合計六一九〇万〇五一三円であると算定される。

(一) 平成二年一一月二〇日から同年一一月三〇日まで

七万四〇〇〇円(三七〇×二〇〇=七万四〇〇〇円)

(二) 平成二年度

一六二四万九〇六〇円(一一万四四三〇×一四二=一六二四万九〇六〇)

(三) 平成三年度

一八一四万一三四二円(一三万一四五九×一三八=一八一四万一三四二)

(四) 平成四年度

一二五四万五五三六円(一一万七二四八×一〇七=一二五四万五五三六)

(五) 平成五年度

八〇六万三三七〇円(一二万七九九〇×六三=八〇六万三三七〇)

(六) 平成五年一二月一日から平成六年七月三一日まで

六八二万七二〇五円(六万五〇二一×一〇五=六八二万七二〇五)合計 六一九〇万〇五一三円

6  そして、鋸柄は背金と把持柄からなり、本件実用新案権は背金についてのものであるから、被告の不法行為による原告らの損害は、右被告が得ていたものと認定される合計六一九〇万〇五一三円の利益のうちの背金の利益相当分であるというべきところ、背金と把持柄の利益割合はその材質等からして同程度のものであろうと推定される。

また、原告らの間においては、原告商品の販売利益につき、原告岡田金属が八〇パーセント、原告ゼット販売が二〇パーセントの各割合で配分取得する旨合意されていたから、原告岡田金属が被った損害は二四七六万〇二〇五円(六一九〇万〇五一三円×〇・八×〇・五=二四七六万〇二〇五円、原告ゼット販売が被った損害は六一九万〇〇五一円(六一九〇万〇五一三円×〇・二×〇・五=六一九万〇〇五一円)と認められる。

第四  結語

以上によれば、原告岡田金属の本訴請求は、本件実用新案権に基づく被告鋸柄の製造、販売の差止め請求並びに不法行為に基づく損害賠償として二四七六万〇二〇五円の支払いを求める限度で、原告ゼット販売の本訴請求は、不法行為に基づく損害賠償として六一九万〇〇五一円の支払いを求める限度で、それぞれ理由があるからこれを認容し、その余の原告らの請求については、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹中省吾 裁判官 小林秀和 裁判官 島田佳子)

被告物品目録

第一 「鋸柄」関係

一1 商品名「ゴールド鋸柄籐巻き」Ⅰ

右商品の「仕様」及び「構造」は別紙「第1号物品『ゴールド鋸柄籐巻き』」Ⅰ記載の通り。

2 商品名「ゴールド鋸柄籐巻き」Ⅱ

右商品の「仕様」及び「構造」は別紙「第2号物品『ゴールド鋸柄籐巻き』」Ⅱ記載の通り。

注. 前記1および2記載「鋸柄」の「背金の構造」は全く同一のものであるが、「鋸柄」の長さが前記1の商品では三〇五ミリであり、前記2のそれは三三五ミリとなっている。

但し、第1~8号物品の鋸柄に固着されている「背金」の構造は、いずれも同一の構造であり、その詳細は別紙「イ号物件説明書」記載の通りである。

二 商品名「ゴールド鋸柄ゴムグリ」

右商品の「仕様」及び「構造」は別紙「第3号物品『ゴールド鋸柄ゴムグリ』」記載の通り。

三1 商品名「ゴールド鋸柄色巻き」Ⅰ

右商品の「仕様」及び「構造」は別紙「第4号物品『ゴールド鋸柄色巻き』」Ⅰ記載の通り。

2 商品名「ゴールド鋸柄色巻き」Ⅱ

右商品の「仕様」及び「構造」は別紙「第5号物品『ゴールド鋸柄色巻き』」Ⅱ記載の通り。

注. 前記1および2記載「鋸柄」の「背金の構造」は全く同一のものであるが、「鋸柄」の長さが前記1の商品では三〇五ミリであり、前記2のそれは三三五ミリとなっている。

第二 鋸刃関係

一 商品名「ゴールド鋸・二五〇替刃」

右商品の「仕様」及び「構造」は別紙「第6号物品『ゴールド鋸替刃二五〇』」記載の通り。

二 商品名「ゴールド鋸・二六五替刃」

右商品の「仕様」及び「構造」は別紙「第7号物品『ゴールド鋸替刃二六五』」記載の通り。

三 商品名「ゴールド鋸・三〇〇替刃」

右商品の「仕様」及び「構造」は別紙「第8号物品「ゴールド鋸替刃三〇〇』」記載の通り。

第三 その他の物品

別紙「第1ないし8号物品」に図示された「背金」と「同一の構造」を有する「鋸の柄」及び右鋸の柄に装着される「鋸刃」。

第1号物品ゴールド鋸柄籐巻き

〈省略〉

第2号物品ゴールド鋸柄籐巻き

〈省略〉

第3号物品

ゴールド鋸柄ゴムグリ

〈省略〉

ゴールド鋸柄色巻き

〈省略〉

第5号物品ゴールド鋸柄色巻き

〈省略〉

第6号物品

〈省略〉

第7号物品

〈省略〉

第8号物品

〈省略〉

実用新案権目録

登録番号 第一九五一六二三号

考案の名称 替え刃式鋸における背金の構造

出願日 昭和六一年四月二八日

公告日 平成二年一一月二〇日

登録日 平成五年二月一二日

実用新案権者 原告岡田金属

考案の範囲 別紙「実用新案登録請求の範囲」記載のとおり

「実用新案登録請求の範囲」

「柄2の先端部に背金3を取付け、該柄2への鋸替え刃の取付けに際しては、背金3の内側に形成した支持部5に、替え刃4の凹部6を掛け合わせるように形成した構成の替え刃の鋸において、背金3全体の長さを、替え刃4の手前側基部を支持する寸法に設定するとともに、背金3における支持部5が位置する下方の間隙部Bを、鋸替え刃4の基部を容易に差し入れ得る巾に設定して解放し、該巾広状の間隙部Bを、背金3における支持部5よりも前方側で、かつ、背金3の下方側付近、あるいは、背金3の先端側付近に形成した鋸替え刃4の厚み以下に設定した狭まり部Cに至るまで継続させ、背金3への鋸替え刃4の掛止め操作時にあっては、鋸替え刃4の背部が狭まり部Cに至るまで挟持状態となることなく自由に回動させ得るようにする一方、鋸替え刃4の完全装着時にあっては、専ら該恒久的な狭まり部Cによって挟持され、背金3における他の内壁面部は鋸替え刃4の側面部に対して圧接状態とならないように形成したことを特徴とする替え刃式鋸における背金の構造」。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

第6図

〈省略〉

第7図

〈省略〉

第8図

〈省略〉

イ号物件説明書

一 図面の説明

1 第1図は、イ号物件(替え刃式鋸における背金)であり、中央が正面図、上方が平面図、下方が底面図、右方が右側面図、左方が左側面図である。

3・・・背金

5・・・支持部

B・・・間隙部

D・・・割り込み部

2 第2図は、イ号物件の前記割り込み部に嵌着せしめる板バネであり、同じく正面図、平面図、底面図及び左右側面図である。

9・・・板バネ

3 第3図は、イ号物件に鋸の柄を取り付けた状態を示す底面図である。

2・・・柄

C・・・挟持箇所

4 第4図は、同じく左側面図(背金の先端方向から見た図面)である。

5 第5図は、これに鋸替え刃を取り付けた状態を示す底面図である。

4・・・鋸替え刃

6 第6図は、同じく左側面図(背金の先端方向から見た図面)である。

7 第7図は、イ号物件に柄及び替え刃を装着した状態及び替え刃装着前の状態を示す参考図である。

二 イ号物件の構成

柄2の先端部に背金3を取り付け、該柄2への鋸替え刃4の取り付けに際しては、背金3の内側に形成した支持部5に、替え刃4の凹部6を掛け合わせるように形成した構成の替え刃式の鋸において、背金3全体の長さを、替え刃4の手前側基部を支持する寸法に設定するとともに、背金3に鋸替え刃4の基端かけがねを両側から押圧する先端が点状の突起となったバネ片10を設け、背金3における支持部5が位置する下方の間隙部Bを、鋸替え刃4の基部を容易に差し入れ得る巾に設定して解放し、該巾を手前側から先端までの間一定にするとともに、背金3の前方の割り込み部Dに嵌着した対向する下端縁が手前側から先端側に向かうに従って幅狭に形成され且つ断面略馬蹄形状の板バネ9により、背金3を前端かつ下端の挟持箇所Cに至るまで下方側の手前から先端に向かうに従って、また、先端の上方から下方に向かうに従って、それぞれ次第に狭まらしめ、背金3への鋸替え刃4の掛け止め操作時にあっては、背金3の内側の間隙の巾が鋸替え刃4の巾より大きい部分では鋸替え刃4を自由に回動させ、右間隙の巾が鋸替え刃4の刃以下の部分では鋸替え刃4の背部が該挟持箇所Cに至るまでの間背金3の内側と接触状態を保ちながら挟持箇所を次第に押し拡げるように回動させるようにする一方、鋸替え刃4の完全装着時にあっては、専ら板バネ9によって形成された挟持箇所Cによって挟持され、背金3における他の内壁面部分は、鋸替え刃4の側面部に対して圧接状態とならないように形成したことを特徴とする替え刃式鋸における背金3。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

第6図

〈省略〉

第7図

〈省略〉

本件物品目録

一 1 商品名「ゼツトソー・二六五」(本体)

2 同替え刃

二 1 商品名「ゼツトソー・八寸目」(本体)

2 同替え刃

三 1 商品名「ゼツトソー・三〇〇」(本体)

2 同替え刃

本件替え刃図面1

〈省略〉

本件替え刃図面2

〈省略〉

本件替え刃図面3

〈省略〉

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